『今はもうない ~Switch back~』(☆4.0) 著者:森博嗣

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避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で一人ずつ死体となって発見された。二つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が…。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ

 

そうなんですか、シリーズ中No1の呼び声が高いとは知りませんでした。
初読の際の印象がまったく残ってなかったので、作品としてどうだったのだろうと少し不安でしたが、改めて読むと高評価も納得できるぐらい非常にまとまった作品でした。

 

この小説の肝は密室トリックそのものよりも、作品に仕掛けられた叙述トリックですね。
まったく記憶が残っていなかった今回の再読、きっちり騙されました。おそらく初読の時も騙されていたんでしょう^^;
叙述トリックというと、読者VS作者の騙すか騙されるかの戦いですね。
特に折原一さんの作品なんかはその傾向が強くて、叙述だと分ってるのにしょっちゅう騙されるんですが。

 

さてさて今回の作品は、確かにそういう部分はもちろんある訳ですが、叙述トリックが時として小説としてのバランスを崩してしまう事が多々見られる中で、この小説はそのバランスが絶妙といいますか、とにかくただ叙述を仕掛けるのではなく、それがきちんと物語、ひいてはシリーズ作品として枠組みにきちんと還元されていると思います。

 

作中のメインである密室トリックは、解決までにいたるまでの推理合戦が繰り広げられますが、これがまた面白いというか。
推理する人物は一部を除いてそういったことにはまったく無縁な人がほとんどな訳で、その経験不足を踏まえた推理になってるのが上手いと思います。
またこういったことになれている一部の登場人物の推理はそれなりなものですし、またその推理っぷりが叙述のヒントにもなってるわけだし。

 

ラストの幕引きの仕方も、ミステリというよりは恋愛小説のような綺麗な閉じ方。
うーん、こういった落ち着いた作品がでてくるから森さんもあなどれなかったりするんだよな~。
S&Mシリーズとしては若干番外編気味な内容ですが、森さんの魅力を味わえるという意味ではオススメの一冊ですね。

 

採点   4.0

 

(2006.8.9 ブログ再録)