『空中ブランコ』(☆4.2) 著者:奥田英朗

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奥田さんを読むのは『邪魔』に続いて2冊目、精神科医伊良部シリーズ(?)を読むのはこれが初めてとなります。
映画版で松尾スズキさんが演じていたので、そのイメージを想像していたら全然違いました(笑)。
あらすじですが、いつものyahoo記事よりもいつもお世話になっているブログl『すべてが猫になる』の記事で、とてもわかりやすいあらすじが紹介されていましたので、そちらから引用させて頂きます。

 

奥田英朗著。文藝春秋。第131回直木賞受賞作。

伊良部シリーズ第2弾。
今回も○ブでマザ○ンで注射大好きの破天荒なとんでも精神科医、伊良部がやってくれます。
サーカス団のエースが人間不信になった時……!
誰もが避けて恐れるヤクザが先端恐怖症に取り憑かれた時……!!
大学講師、付属病院勤務の青年が養父のヅラを取りたい破壊衝動に苦しんだ時……!!!(笑)
野球界のスターがノー・コントロール病にかかってしまった時……!!!!
恋愛小説のベストセラー女流作家が「前にこれを書いた気がする」強迫症に苦しんだ時……!!!!!
彼ら5人が伊良部総合病院の精神科を訪れた事から、悪夢は始まる(笑)
患者はどっちだ!?こいつはやっぱり名医なのか!?

『すべてが猫になる』より

 

うーん、絶対こんな医者には見てもらいたくないなあ~。いや、そばから見つからないように観察するのは楽しそうだけど(笑)。
なんでしょう、ストーリーが抜群にいいとも思わないし、登場人物も個性的ながらそこまで独創的かと言われればそうでもない・・・
でも読み始めるとぐいぐいストーリーに引き込まれるんですよね~。
下手な作家だと、この伊良部というトンデモキャラを全面に押し出して物語を進めてしまうような気がするが、そうなると絶対にこのキャラは読み続けるにはあまりにクドイものになる予感がする。
そういう意味では各短編の語り手達と伊良部の距離感は絶妙だし、伊良部の個性とストーリーの面白さの両方を十分に楽しめると思う。

 

結局この本は、どこがすごいとか面白いとかいうよりも小説の作り方としてかなり高いんだろうなと。
文章力とかは磨いていけば上手くなるかもしれないですが、小説を書くという事になるとまた違った才能が必要だというのを見せつけるというか。
お涙ちょうだいでも爆笑でもない、例えば痒いところに手が届くというのか、作品にただよう絶妙のバランス感覚は、初めて読んだ「邪魔」に漂ったリアリティがよりエンターテイメント的に昇華されているし、広い作風を持ちつつもそれぞれを高いクオリティで見せる事のできる作者の技量は素晴らしいと思う。

 

個人的に好きな作品は「ホットコーナー」と「ハリネズミ」かな。
でも他の短編もそれらと甲乙つけ難い完成度だと思うし、これはほんと好みの部分だけで分かれるだけじゃないのかなあ。

 

ただこういう感じの本でいうと、どうしても浅田次郎の「プリズンホテル」の方が好みであり、作品としての吸引力も優れいているように思ってしまいました。
そういう意味では一般的にはもう少し点数をつけてもいいのかもしれない。
まあ、これは長編と短編という違いもあるので一概には言えないし、この小説も十分に面白さを堪能できる作品なのには間違いないでしょう。

 

採点   4.2

(2006.8.6 ブログ再録)