たいりょうのちょっと一息

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『黒と茶の幻想』(☆3.8)著者:恩田陸

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太古の森をいだく島へ―学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。(上巻)

雨の音を聞きながら、静かな森の中を進んでいく大学時代の同窓生たち。元恋人も含む四人の関係は、何気ない会話にも微妙な陰翳をにじませる。一人芝居を披露したあと永遠に姿を消した憂理は既に死んでいた。全員を巻き込んだ一夜の真相とは?太古の杉に伝説の桜の木。巨樹の森で展開する渾身の最高長編。(下巻)

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『三月は深き紅の淵を』『麦の海に沈む果実』に続くシリーズ(?)第3弾。
内容としては『三月は~』で語られる作中作(?)「三月は深き紅の淵を」の第1章の小説化といったところでしょうか。
さらには『麦の~』にも登場した憂理(多分同一人物?)も印象的なキャラクターとして登場する。
正直面白いのか面白くないのか、僕には分からない。ただそういう部分を越えて引きずり込まれていく力があるとは思う。

 

冒頭から繰り返される大小の謎とそれに関する4人の解答。この謎も恩田さんらしいのというか曖昧模糊としたものが多い。ただこの曖昧さは現実で僕たちが出会う謎や疑問というものに共通するものだと思う。現実として共有できる謎を繰り返し提示させられる事によって、物語に否応なく引きずり込まれていく。

 

そんな謎の積み重ねの中で、登場人物4人の心の中で鍵を掛けられていた何かも否応無く引きずり出されていく。前4章仕立てで、それぞれの章題が登場人物の名前になっており、その人物によって語られていく。旅が続くにつれて本人にすら分らなかった鍵の向こうの物語が開かれていき、その物語によりまた別の鍵が開かれていく。いわゆる物語の連鎖。この連鎖に終わりは無い。
個人的に面白いなと思ったのは、読み始めた当初一番謎を含んでいると感じさせた蒔生が最終章を飾るのではなく、むしろその逆のポジションにいた節子が締めくくるということかな。物語全体としては蒔生の存在が大きな鍵になっているのは間違いないのだが、それを3章で語った上で、物語の連鎖がまだまだ続いてしまうところに作品の本質が垣間見えるような気がした。

 

同時に物語のモデルを屋久島、そして屋久杉に置いたアイデアも秀逸であり、それぞれの章で登場人物が森の印象を語ることにより情景と物語が密接な関係を持ち、さらには真実を語る事の無い森の歴史が、人生、そして物語と見事にシンクロしていると感じられた。

 

この作品自体は恩田さんにしては(?)物語がある程度きちんとした閉じ方をしている。この閉じ方に異論がある人は少ないと思う。
しかしながら物語が閉じてもなお、物語は終わらないというのもこの作品の特徴ではあると思う。
はたして、彼らは再びこの場所を訪れることがあるのだろうか?その物語も期待してみたいのは贅沢だろうか?


採点   3.8

(2006.7.21 ブログ再録)