『Op.ローズダスト』(☆3.4) 著者:福井晴敏

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 2006年秋、ネット財閥「アクトグループ」の役員を狙った連続テロが発生。公安警察北朝鮮工作員の犯行と断定し、「ローズダスト」と名乗る5人のテロリストを追い始める。
 だが、そこには複雑な真相があった。ローズダストは、元は防衛庁情報局・通称「ダイス」に所属する工作員たちだった。彼らはある目的のために、北朝鮮の支援を受けて日本に戻ってきたらしい。

 リーダーの名は入江一功。まだ20代半ばの若さだが、工作員として稀有な才能を有していた彼は、行方不明だった3年の間にさらにその能力に磨きをかけていた。テロリストとして帰って来た狂犬を狩るために、ダイスは彼を良く知る者――丹原朋希を猟犬として放つ。
 元親友、だがその彼を殺すことだけが、4年前に「彼女」を失ってしまった自分にできる、唯一の贖罪……。朋希は愛憎を胸にローズダストを追う。

 一方、そんな朋希と偶然関わりを持った警視庁公安部の並河次郎は、ダイスにイニシアティブを握られることを嫌う公安上層部からの命令で、朋希と組んで捜査に当たることになった。
 年齢も、性格も、ローズダストを追う目的さえも全く異なる並河と朋希。自らの利権を守ることを第一とする警察、防衛庁、政府。足並みの揃わない彼らをあざ笑うかのように、ローズダストは東京を次々と炎に染めていく。

 「危機に弱い日本」「主権なき国家」「リベラルという思考停止」――恐怖を語る「古い言葉」に踊らされ、静かに狂っていく日本。ローズダストの真の目的とはなんなのか?
 互いを理解しながら憎しみあう朋希と一功、そして彼らを取り巻く人間たちの群像劇を通して、日本の未来について問いかける、壮大なスペクタクル・サスペンス!

「Op.ローズダスト」特設ページより

 

図書館の予約で何ヶ月待ちだったんだろう。分厚い上下巻なので回転率も悪かったんでしょうな~。
僕もちょうど忙しい時期と貸出が重なってしまい、しかもあとにも予約が入ってるのが確認できてるので期間内に読みきらねばならない。という事で他の本より優先的に読んだ結果、読まずに返却せねばならなくなった本続出です。

 

それはともかく本筋へ。
福井さんといえばやっぱり軍事サスペンスという印象がありますし、この本も現代の日本を舞台に虚実織り交ざったストーリーが繰り広げられます。
亡国のイージス」「終戦のローレライ」はともにかなり好きな小説でした。もちろん細部の描写にまで拘った結果、マニアックな兵器の数々にちょっとパニックになりかけますが、それを補ってあまりある壮大なスペクタクルと熱すぎる魂の物語。これまでの著作はこれらがギリギリのところで絶妙なバランスを持っていたと思ってます。

 

ただ今回の作品に関しては、ちょっと軍事描写に偏りすぎちゃったかなという印象を受けました。
特に今回は自衛隊警察庁、警視庁、IT企業、さらには北朝鮮とかなりの人物と団体の思惑が物語の中で交錯していき悲劇的な展開を巻き起こすわけですが、あまりに複雑すぎて、とくにそれらの関係が把握しきれなくなる時がありました。と、同時に一部の団体や人物に関して類型的な人物造形が採用されてるからなのか、彼らの内面の変化が掴みにくかったりします。

 

ラストも「~イージス」「~ローレライ」に較べるとカタルシスが薄い。これは全編に漂う福井さんの主張に物語が振り回されすぎてるからなのかな。それまでの作品と較べてもより現実の世界観が物語に反映されている分、より主張が主張として強く出てしまった気がします。そのわりに彼らが行おうとした結末もやや腰砕けな感じも否めないですね。
ラストの場面、かなり映画的なイメージで幻想的なだけにそこまで持っていく部分が緻密ゆえの煩雑さが散見されるのが惜しいですね~。

 

福井さんらしく、テロリストVS国家の戦いなのでは濃密すぎるぐらい濃密で手に汗握るし、物語として胸にぐっとくる部分もあるだけに、もう少しノンフィクションの要素を整理してもらってたらなあ~。

 

採点   3.4

(2006.7.12 ブログ再録)