『暗いところで待ち合わせ』(☆4.5) 著者:乙一

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視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった―。書き下ろし小説。

Yahoo紹介

 

乙一さんの長編を初めて読みました。
短編「Calling you」「しあわせは小猫のかたち」と合わせて3部作となる本編、どの小説にも共通するのはが自分を孤独の中に包み込み、それが絶対の価値観であるかのように暮らしている登場人物達が、見えざるモノとの時間(空間)を共有するということでしょうか。

 

盲目の女性と健常者である男性、この組み合わせはよくあるパターンですが、そこにお互いを認識しようとしないまま共同生活を始めるという設定を持ち込む事によって、物語にくっきりとした緊張が漂います。
乙一独特の淡々とし静かな語り口のもたらす効果なのか、本来異常な共同生活である彼らの行動がまるであるべき日常のように静かに進んでいきます。
だからこそ、ちょっとしたアクシデントが静かな池に放り投げられた石がもたらす波紋のように読者の、そして登場人物の心の中に広がっていきます。

 

アキヒロが巻き込まれた事件の解決もまた、そんな波紋のように広がっていきます。
日常でおこる全てを同質と捉え書き記す乙一の文章は、人の死すら静謐の中に飲み込んで生きます。
だからこそ、そこから浮かび上がってきた主人公それぞれの隠された思いが静かに読者の胸を打つのではないでしょうか。

 

初めて読んだ長編ですが、乙一さんの魅力が損なわれる事はありませんでした。
ただ、彼の濃密なまでに淡々とした文章を味わうには、無駄をそぎ落とした短編に持ち味が発揮されるのではとも思います。
ただ、十分に読み応えのある小説ではありました。



採点   4.5

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