邦画『パッチギ』 監督:井筒和幸

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1968年の京都、お寺の息子松山康介(塩谷瞬)は府立東高校の2年生。モテたい一心で、同級生の紀男(小出恵介)とGS人気にあやかって“キノコカット”にするが、結果は女の子に気持ち悪がられるだけだった。
府立東高校空手部との争いが絶えない朝鮮高校の番長アンソン(高岡蒼佑)たちは、修学旅行で京都に来ていた海星高校とケンカになる。そして、彼らのバスは大勢の朝高生によって横転させられてしまう。

次の日、康介の担任布川先生(光石研)は、“バス横転事件”の新聞を見せながら、朝高との親善のためにサッカーの試合を開催することを提案する。そして、たまたまその日の週番だった康介と紀男が申し込みに行くことになる。2人は恐る恐る朝高に行くが、康介はブラスバンドの音色に誘われるままに音楽室をのぞき込み、フルートを吹くキョンジャ(沢尻エリカ)に一目で心を奪われてしまう。しかし、すぐに彼女はアンソンの妹だと知らされる。

康介は紀男と入った楽器店で酒屋の坂崎(オダギリジョー)と知り合い、キョンジャが吹いていた曲が「イムジン河」だということとその歌の意味を、そしてこの歌にまつわるフォーク・クルセダーズの話を教えてもらう。康介は国籍の違いに戸惑いながらもキョンジャと仲良くしたくて、「イムジン河」をギターで弾くためにフォークバンドを結成しようと紀男を誘う。

サッカーの親善試合が実施されることになり、当日は情報を聞きつけた空手部の大西(ケンドーコバヤシ)たちも朝鮮高校のグラウンドに駆けつける。しかし、試合開始と同時に朝高に得点を許すといきなり空手部の生徒がケンカを仕掛けて、すぐに乱闘が始まってしまう。アンソンが加勢して形勢は逆転するが、収拾がつかなくなって試合は中止になる。
その後、親友のモトキ(波岡一喜)と合流したアンソンと弟分チェドキ(尾上寛之)は、空手部の大西と近藤たちに待ち伏せされてボコボコにされてしまう。

康介は朝鮮語を覚えるために朝鮮語辞典を買い、坂崎からギターと歌を教えてもらう。そして、坂崎からフォークルのコンサートのことを聞いて、思い切ってキョンジャをコンサートに誘うことにする。勇気を出して電話をすると、その日は自分のコンサートがあるからと断られるが、逆にそのコンサートに誘われた康介は「絶対行きます!」と答えていた。


スタッフ
監督:井筒和幸
脚本:羽原大介井筒和幸
撮影:山本英夫
編集:冨田伸子
音楽:加藤和彦
原案:松山猛「少年Mのイムジン河」(木楽舎刊)
曲:「イムジン河」「悲しくてやりきれない」「あの素晴らしい愛をもう一度」 
製作:シネカノンハピネット・ピクチャーズ衛星劇場、
   メモリーテック、S・D・P
企画・制作:シネカノン


いま日本映画界で最も油ののった井筒監督の現時点での最新作。
僕も『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ』など井筒監督の映画はかなり好きなので、WOWOWでの放送であらためて見ました。
井筒映画の特徴は登場人物達の溢れるパワーだと思います。特にただただ生きる事が楽しくて無鉄砲な若者を描かせたら天下一品。

 

この映画も背景には南北朝鮮の断絶の悲劇や太平洋戦争時に起こった日本軍による強制徴収などがあるんですけど、そんな社会の荒波にもまれながらも、友情や恋愛に一生懸命な若者達の姿がいきいきと描かれています。康介とキョンジャの恋愛模様は対立するグループ、そして民族の壁を越えようとするいわば井筒版「ロミオとジュリエット」。ロミオ達の恋は悲恋に終わってしまいましたが、この作品の二人はどういう選択をするのか最後まで気になってしまいます。

 

共通の友人の死、その葬式の場面で自宅に御棺が入らず、家の扉を叩き壊すアンソン達の姿は、行き場の無いどうしようもない哀しさを持て余した彼らの思いが伝わってきて自然の涙がこぼれます。その場面で康介は民族の壁を突きつけられてしまいますが、ラジオの公開放送でその気持ちをぶつけて歌う「イムジン河」をバックに、弟分の敵討ちのケンカを繰り広げるアンソン、彼が北朝鮮に帰国する事が決まっているにも関わらず子供を産もうとする恋人の出産場面、そして彼の心からの歌を家族や友人達に聞かせ、彼のそして自分の思いを伝えようとするキョンジャ。
理屈じゃなく自然に彼らの体から溢れるパワーが伝わってくるクライマックスはただただみつめるばかりです。

 

登場する若者、そしてそれをとりまく家族達を演じた役者陣の好演、そしてなによりも「イムジン河」のせつないメロディーと歌詞が素晴らしい形で結びついたとっても楽しく感動できる映画でした。

 

ああ、「パッチギ2」がいまから待ち遠しい今日この頃。でもあの傑作「のど自慢」も2は最悪だっただけにちょっと心配ですけど。大丈夫ですよね、井筒さん♪