『GOTH』(☆4.4) 著者:乙一

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森野が拾ってきたのは、連続殺人鬼の日記だった。学校の図書館で僕らは、次の土曜日の午後、まだ発見されていない被害者の死体を見物にいくことを決めた。話題騒然の若き天才乙一の初の単行本!

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GOTH-カバー裏の文章によると、人間を処刑する道具や拷問の方法を知りがたがり、殺人者の心を覗き込むもの、人間の暗黒部分に惹かれるものたちが、GOTHと呼ばれる・・・そうな。

 

端的にいうと、すべての短編に共通する登場人物、主人公たる「僕」と森野夜がまさにGOTHであると。二人は無意識にお互いを同種の人間と悟り、共に行動していく、そんな感じ。
それにしてもそれぞれの短編で描かれる殺人という行為の切り取り方がやたら巧いというか・・・主人公達の個性が個性だけに一歩間違えるとかなり散文的になったり、あるいはグロテスクなものになってしまいかねないと思いますが、乙一氏の文体が成せる技なのかいつのまにかさらっと作品の中に取り込まれていく自分に気付きます。

 

登場する人物の心理は表層的に見ると異常と認識されるものでありありながら、それもまた普通の人間の発想であり興味を抱くものであるのを改めて実感。結局人間は人間なのですよ。

 

正直、感想どうのこうのというより読んでみて下さい、ってだけで十分な気が(笑)。
個人的に好きだったのは、「犬」と「声」。「犬」は犬から見た飼い主の女の子の視線の描写が素晴らしく、ラストの救いの無い切なさに有機的に結びついてると思うので。「声」はもう、被害者の女性が最後に残したテープの会話、それに答える妹というクライマックスシーンにつきます。

 

それとは別に「記憶」で明らかにされる森野夜の謎。この短編集で一番最後にプロット、他の作品が出来た時に森野のキャラが薄いからと即席で考えられたらしいですが、知らなかったらまったく気付きませんよそんな事。乙一さんの中でもまったく想定外の出来事なのに、他の作品とのシンクロニティの高さは・・・すごいんでしょうね、やっぱこの人は。

 

採点   4.4

(2006.6.18 ブログ再録)