『心のなかの冷たい何か』(☆4.0) 著者:若竹七海

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失業中のわたしこと若竹七海が旅先で知り合った一ノ瀬妙子。強烈な印象を残した彼女は、不意に電話をよこしてクリスマス・イヴの約束を取りつけたかと思うと、間もなく自殺を図り、植物状態になっているという。悲報に接した折も折、当の妙子から鬼気迫る『手記』が届いた。これは何なのか、彼女の身に何が起こったというのだろう?真相を求めて、体当たりの探偵行が始まる。 Yahoo紹介

 

若竹七海のデビュー2作目にして初の長編。まあ処女作も連作長編なんですが、純粋な長編という意味で。
実を言いますと、僕の若竹さんベストがこの小説なんですよね~。
完成度からみると、『ぼくのミステリな日常』と較べても煩雑な感じがするし、『スクランブル』などに較べると落ちるかなとは思うんですけど、この世界観がすごくしっくりきたので。

 

物語はヒロインと毒殺魔の駆け引きをベースに一ノ瀬妙子の悲報に隠された真実に迫るという設定ですが、毒殺魔の「手記」が非人間的でありながら人間的という相反する矛盾を内包してかなりリリカルな印象を与え、さらにそれが作品そのものの構造をも示唆してるという人間心理にベースを置いた複雑な構造になっています。(このあたりの作者の狙いはかなり明確なものの、初の長編のためか文章の描き方に若干煩雑なところがあり読みにくさに繋がってるところがあるのですが)

 

その中をもがきながらも真実に向かって進もうとするヒロインがラストで直面する意外な真実と行動・・・。
これもまた不条理な生き物としての人間、そして一ノ瀬妙子という女性が描いた物語の悲劇性とあいまって読者に突き刺さってきます。

 

また、身近な人の中に潜む悪意や狂気というのちの若竹作品にも通じる部分が描かれているという意味で、主人公たる七海が事件を解決する為ではなく自分自身が納得する為に真実を追っているという設定がもたらす深みも見逃せません。

 

なにより、個人的にこのタイトルにやられてしまいました。人間一度は自分の中にこういうモノを感じてしまった事があるんではないでしょうか。それを簡潔に表したこのタイトルこそこの小説の全てを物語っている気がします。
ながらく文庫化が見送られてましたが発表から14年、2005年に創元推理文庫から発売されましたのでこの機会に一度手に取ってみるのもいいんではないでしょうか。

 

採点   4.0

(2006.6.17 ブログ再録)