『エナメルを塗った魂の比重~鏡稜子ときせかえ密室~』(☆3.4) 著者:佐藤友哉

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青春は美しくない。私の場合もそうだった。二年B組に現れた転校生。校内で発生した密室。それらを起点として動き出す、不可解な連中。
コスプレを通じて自己変革する少女。
ぐちゃぐちゃに虐められる少女。
人間しか食べられない少女。
ドッペルゲンガーに襲われた少女と、その謎を追う使えない男。
そして…予言者達。
私は連中の巻き起こす渦に呑まれ、時には呑み込んで驀進を続けた。
その果てに用意されていたのは、やはりあの馬鹿げた世界。…予言。
あの時の私は、それで何を得たのだろうか。
ま、別に知った事じゃないけどさ。

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びっくりした。

 

何がって、デビュー作『フリッカー式』で見せた稚拙なまでの文章がかなり改善されている事。まだまだ読みづらい部分はあるもののかなりまともな文章が。さらにこの進歩にあたって、処女作でみせた独自の文体に関する模索がまったく消えてしまってるのに唖然。
うーん、良くも悪くも進化途中の作家なのか?そういう意味では、メフィスト賞にピッタリの受賞者かもしれない・・・。

 

内容的には『フリッカー式』に続く『鏡家サーガ』(といっていいんですかね?)の第2弾。前作にも登場した鏡凌子の高校時代の物語。
またこの高校、というか凌子のクラスメイトが殆ど全員壊れてます。というか、上のあらすじで語られるどれもまともには見えないメンバーばかり。物語はこれらのファンキーな少女達(あるいは少年達)それぞれの視点から同一の事件が語られる訳ですが・・・
当然人肉喰いの少女にはそのシーンがあったり、苛めの場面ではかなり壮絶(というかいじめのレベルを超えてますよね。実際にこんなことあるんでしょうか?)な描写が繰り広げられます。

 

でもなんとなく読めるというか、もちろん生理的に駄目な人もいるとは思いますが、壊れたなら壊れたなりに登場人物の思考ががっちりしてる分読んでて辛い!!って思う事はなかったですね。

 

しかしまあ、このラストは・・・前作を読んでなかったら壁にぶち当てるでしょうね、ホント^^;
前作があるからこのラストがそれなりに強烈な世界観で迫ってくる・・・まあどちらかというとメタな世界ですけど。
そしてラストのラスト・・・うーん、そこまでやりますかって思うよね。納得できた(といっても納得できない事の方が多いんですけど)世界観をもう一度ひっくり返して混沌の世界へ読者を落とすといいますか。

 

正直、読んでみて判断してみて~としかいえないかも。でも処女作からは考えられない進歩。まだまだ控える鏡家軍団、もう少し読んでみようとは思います、ホントに。

 

それにしても絶対メフィスト賞意識してるよな~。前作の安藤直樹に続き今回は奈津川も出てくるし・・・。

 

採点   3.4

(2006.6.16 ブログ再録)