『石ノ目』(☆4.4)  著者:乙一

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ある夏休みに私は、友人とあの山に登ることにした。私が幼い頃、あの山に一人入って消息を絶った母親の遺体を探すためだ。山には古い言い伝 えがあった。曰く「石ノ目様にあったら、目を見てはいけない。見ると石になってしまう」と。そして、私たちは遭難した。斬新な文体で新しいホラー界を切 り開く乙一の短編集。書き下ろしを含め四編、ここに登場。

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人生初の乙一さんです。
これまで読んでなかった理由は・・・・これまた特にはありません(笑)。そして選んだ本はホラー、その理由はそれ以外は全部貸し出されてたから。
読み終わって・・・先月のくろけんさん、倉知さんに続いてまたも読まなきゃいけない作家リストが'''増えました。それぐらいやられたなあ。

 

といいますか、これはホラーなんですかね~?
日本のホラーというと最近では鈴木さんの「リング」に始まる流れや、坂東さんの数々の作品、小野さんの『屍鬼』のような民俗学的な雰囲気を持った作品を思い出したのですが、明らかにそれらとはまた違う仕上がり。唯一表題作の「石ノ目」がそれらに近いものがありましたけど、それでも根本には恐怖よりも失うこと、失ったことに対峙しなければならない心の流れがあるような。そこには哀しみよりも、もっと暖かいものが表現されている気がします。

 

その理由は、全編共通して異質な物に対する理解がナチュラルな視点で構成されてる事も要因ではないでしょうか。ホラーの一つの醍醐味として、なぜそんな事が起きたのか、なぜそのような妖怪(幽霊)が現れたのか、という理由を究明することが一つの醍醐味だと思うんですが、収録作の主人公達はそれを無条件で受け入れたり(あるいは怪異そのものが主人公であったり)する事によって、現実の物語では描きえない部分を表現する事を可能にしてるのではないでしょうか。
では収録作別の感想を

 

『石ノ目』

 

あらすじは上を参考にして下さい。収録作の中では一番オーソドックスな作品で、ラストの展開もある程度予想は出来ました。ただ、「石ノ目」が大切にしていた木箱の中身は想像できませんでしたが。

 

『はじめ』

 

号泣!!小学生達が嘘をつくために作り上げた架空の少女、はじめ。そんな彼女が主人公達の前に実際姿をあらわして・・・。なによりはじめの存在が切ないです。自分が少年達の創造の産物と知りながら、架空の世界で日常生活を楽しみつつも、現実の世界に対する憧れが滲んできて・・・このあたりの見せ方が巧いから、ラストの展開が一段と心に迫ってくるのではないかと。

 

『BLUE』

 

また号泣!!ある特殊な生地で作られ自由に動ける5体の人形。「王子」「王女」「白馬」「騎士」そしてあまりモノの記事で作られた女の子ブルー。そんな彼らがある家族の家に貰われて・・・。
物語はほとんどブルーの視点で語られるわけですが、このブルーの純粋な部分とそんな彼女の視点から描かれる家族模様がグイグイと迫ってきました。ラストはよくあるパターンですけれども、それまで語られた物語が秀逸なぶん、きちんと泣けます(僕だけ?)

 

『平面いぬ。』

 

またまた号泣!!ひょんな事から左腕に犬の刺青を彫ってしまった女子高生。ある日その刺青が皮膚の上を自由に動く事に気付きます。さらに彼女の家族にある不幸が・・・。
まず刺青が動く事にあまり疑問を抱かない主人公をここまで違和感なく書けるのがすごいかも(笑)。
この犬が妙にかわいくてそれだけで読むのが楽しい訳ですが、後半一気に加速する中でこの犬の存在をきちんと処理しているのに感心しました。
ラスト前、主人公の弟の言葉の意味が分かった時に、涙腺が耐え切れず・・・。


いやあ、久々に後味良くなける作品が集まってて読んでよかったわと。こういう気持ちいい涙は『プリズンホテル』以来?
 

(2006.6.8 ブログ再録)