『天城一の密室犯罪学教程』(☆2.6) 著者:天城一

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「幻の探偵作家」の初作品集。理論と実践で提示する"本格推理の真髄"がここにある!摩耶正シリーズ全短編収録。

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著者の略歴やいろんな評を見る限り、この本を刊行する事自体に意義があったのであろう事は間違いないのでしょう。
ただ、僕の場合天城さんの名前自体を存じ上げなかったので、そのあたりに関する感慨はまったくありません。

 

しかし、「このミステリーがすごい!2005年の三位」であり、そこに載せられた評を読む限り、結構好みの作品なのでは、と期待して手に取りました。

 

まず、触れておかなければならないのが本書の構成。
著者が私家版として出版した『密室犯罪学教程』を収録してあること。これは著者の視点から密室トリックを分類する「理論編」、その理論に基づいた実作を集めた「実践編」、そして著者が生み出した探偵摩耶正の短編を完全収録した「毒草/摩耶の場合」の3部構成。

 

収録順は「実践編」→「理論編」→「毒草」となってる訳ですが、まずは「実践編」を読んで「理論編」(すべての短編に関してトリックの分類が書かれています)を読むのが正しい楽しみ方。

 

しかし楽しめなかった・・・。まずこの「実践編」はあくまで理論に基づいた実作という部分を純粋に煮詰めた形であって、散文的な文章と削りに削った内容でページ数的にも短編というよりショートショートに近いもものもあります。
僕の理解力が低いせいなのか、この「実践編」のトリックがよくわからないのが多い。小説的な楽しみはこの部分において意図的に削られているので、それに関して云々言うのは間違ってるとは思うけど、それにしてもこれは・・・中にはトリック解説を読んでも結局密室の作り方がよく分からないのもあったし。
「村のUFO」(本作で最も短い小説)に至っては、なぜか蘇部さんの小説が頭を(失礼かな?)。
結局この部分に関しては、僕はお呼びでないのだろう、そう考えざるを得ませんでした。

 

逆に「理論編」は読み応え十分。特に冒頭の乱歩に捧げる献詞は著者の率直な姿勢が書かれており圧巻。
本編もカーや乱歩とはまた違う視点の分類であり、著者の密室に対する態度が明確にされており、特に超純密室に関する考察はかなり頷かざるおえない部分を含んでおり、「理論編」だけでもそれなりに価値があるのではと思います。
ただ過去の著名な作品のトリックに数多く触れており、私家版ならともかくこのような形で出版されるのであれば、出版社なりが配慮してもいいのではとは思いました。

 

最後の摩耶物に関しては「実践編」に比べ格段に小説になっており、現代でも通用する小説がいくつかあったと思います。
特に超純密室理論に基づいて書かれた「高天原の犯罪」は、非現実的ではあるものの当時の日本における風習を上手く取り込んでおり、チェスタートンのある有名作品に対する挑戦としてもそれなりの成果を挙げてるのではないでしょうか。

 

ただ全体としてはかなり難しい本であり、よほど好きではないと読むのは厳しいというのはあるかと思います。僕自身もこれは何度も挑戦してやっと読み終えた、久しぶりの難敵でした。

 

採点   2.6

(2006.6.6 ブログ再録)