『黒死館殺人事件』(☆測定不能) 著者:小栗虫太郎

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本作はゲーテの『ファウスト』に多大な影響を受けたという。基本的な筋は、前作『聖アレキセイ寺院の惨劇』を解決した名探偵・法水麟太郎(のりみずりんたろう)が、「ボスフォラス以東に唯一つしかない…豪壮を極めたケルトルネサンス様式の城館(シャトウ)」・黒死館で起こる奇怪な連続殺人事件に挑む、というものである。
黒死館に住まうのは、天正遣欧少年使節千々石ミゲルが、カテリナ・ディ・メディチの隠し子と言われる妖妃カペルロ・ビアンカと密通してより、呪われた血統を連ねる神聖家族・降矢木家である。この館が「黒死館」と呼ばれるのは、かつて黒死病の 死者を詰め込んだ城館に由来するという。館の当主、降矢木算哲は既に歿し、遺児の降矢木旗太郎が後を継いで現当主となっていた。算哲は欧州で医学と魔術を 極めて帰国したが、同時に連れ来たる西洋人の赤子四人を館内に押し込め、何十年も門外不出の絃楽四重奏団として育て上げていた。その黒死館を舞台として、 ファウストの呪文とともに繰り広げられる奇怪な殺人劇が、降矢木家に襲いかかる。
Wikipedia概要より

 

先月は中井英夫の『虚無への供物』を月間1位に上げましたが、今回は『虚無~』『ドグラ・マグラ』と並び、日本ミステリ界の三大奇書と呼ばれる小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』の再読に挑戦。
小説の概要については、はっきりいってまとめる自信が無いので引用(まあいつもですが)さして頂きました。

 

元々この小説は、昭和8年11月から「新青年」に連載が始まった江戸川乱歩『悪霊』の休載に伴い、代役として連載が開始されたものです。
しかしまあ、突然の連載にも関わらずこんな小説を書いてしまう小栗の天才ぶりにはただただ驚嘆するばかりです。

 

初めて読んだのは中学生の時でしたが、あまりに難解な為なんとか読了したものの憶えているのは、この有名(?)な一節、

 

「とりもなおさず、これが今度の降矢木事件の象徴(シンボル)という訳さ。犯人はこの大旆(たいはい)を掲げて、陰微のうちに殺戮を 宣言している。あるいは、僕等に対する、挑戦の意志かもしれないよ。だいたい支倉君、二つの甲冑武者が、右のは右手に、左のは左手に旌旗の柄を握っている だろう。しかし、階段の裾にある時を考えると、右の方は左手に、左の方は右手に持って、構図から均斉を失わないのが定法じゃないか。そうすると、現在の形 は、左右を入れ違えて置いたことになるだろう。つまり、左の方から云って、富貴の英町旗(エーカー旗)――信仰の弥撒(ミサ)となっていたのが、逆になったのだから・・・そこに怖ろしい犯人の意志が現われてくるんだ」
「何が?」
「Mass(弥撒)と acre(エーカー)だよ。続けて読んで見給え。信仰と富貴が、Massacre(マッサカー)――虐殺に化けてしまうぜ」

 

の部分と何故か光を発している第1死体、そして犯人ぐらいでした。

 

今回の再読で改めて思った事・・・うーんやっぱり書いてある事がさっぱりわからん!!
この作品の名探偵は法水麟太郎という人物なわけですが、この男ヴァン・ダインが生み出したファイロ・ヴァンスを10倍したような薀蓄好き。
しかもそのひとつひとつの薀蓄が非常に長い!!一つの事が気になると事件の考察をほっておいて長い時には何ページにも渡って喋ってくれます。
その内容を引用してみます。これは初めて黒死館を訪れた法水が前主降矢木算哲博士の自殺に疑問を呈した場面、

 

莫迦(ばか)な、自殺と決定されたものを……。貴方(あんた)は検屍調書を御覧になられたかな」
「だからこそです」と法水は追求した。「貴方は、その殺害方法までもたぶん御承知のはずだ。だいたい、太陽系の内惑星軌道半径が、どうしてあの老医学者を殺したのでしょう?」

 

太陽系の内惑星軌道半径?なんですかそれは?もうしばらく読むと、これを指す意味が分かるのですが、はっきり言って内惑星軌道半径なんて持ち出す必要は一切ありません。
しかもこの場面、ここから導き出した解答を、その直後法水自身が否定してしまいます。
ちなみにこの直前にはこんな記述も

 

「では最初反太陽説の方から云うと、アインシュタインは、太陽から出た光線が球形宇宙の縁を巡って、再び元の点に帰って来るというのです。そして、その ために、最初宇宙の極限に達した時、そこで第一の像をつくり、それから、数百万年の旅を続けて球の外圏を廻ってから、そこに第二の像を作るというのです。 然しその時には既に太陽が死滅していて一個の暗黒星に過ぎないでしょう。つまりその映像と対称する実体が、天体としての生存の世界にはないのです。どうで しょう久我さん。実体は死滅しているにも拘らず過去の映像が現われる-その因果関係が恰度この場合算哲博士と六人の死者との関係に相似していやしません か。成程一方はÅであり、片方は一億兆哩でしょうが、然しその対称も世界空間に於いてはたかが一微小線分の問題に過ぎないのです。それからジッターはその 説をこう訂正しているのですよ。遠くなるほど、螺旋状星雲のスペクトル線が赤の方へ移動していくので、それにつれて、光線の振動周期が遅くなると推断して います。それがために宇宙の極限の達する頃には光速がゼロになり、そこで進行がピッタリ止まってしまうというのですよ。ですから、宇宙の縁に映る像はただ 一つで、恐らく実体とは異ならないはずです。そこで僕等は、その二つの理論の中から、黙示図の原理を択ばなければならなくなりました。」

 

うーん、あらためて読んでもさっぱりわかりません(汗)。とてもミステリの記述とは思えません。
なにかあるたびにこのような薀蓄を披露し(しかも凡人たる僕にはその薀蓄が正しいのかどうかすらわかりません)、結局言いたい事がなんなのか、というよりは会話が終わる頃には元々の始まりである疑問点についてすら忘れてしまいそう(というより、結局その核心に触れないまま次の展開に至ることもしばしば)。

 

さらにやっかいなのは、相棒というべき支倉検事や熊代捜査局長がこの法水の薀蓄にしばしば乗っかってしまう事。登場人物の皆さんが余りに博識すぎるのか、それともこれは異世界の物語なのか。
そんな薀蓄の海に沈む物語はというと、実はかなり単純だったりします。
確かに光る死体や見立て殺人など、小道具立ては立派なもののそのトリックはかなりショボイ(と思います、多分・・・よくわからん・・・)、事件そのものを語ろうと思えば10分の1ぐらいで終わるのでは無いでしょうか?
そもそも、この事件に法水が首を突っ込まなければ相当早く解決してたんじゃないかという確信が、再読を終えて僕の頭の中を駆け巡りました。
まさに名探偵ならぬ迷探偵、言葉を駆使し読者を翻弄するその高尚さはかの清涼院氏なんてお子様レベルです(較べるな?)。

 

三大奇書の中でも、奇書という意味では他の2冊をぶっちぎりで突き放してます、ホント。
では面白いのかというと・・・面白くなくはないのですよ。
読んでる内に脳内麻薬全開の領域にトリップさせられた気分になるので・・・なれないか?
正直、是非読め!!とオススメできる小説ではございません。
でもミステリを語る上ではこれを読まないと!!という強者には、是非メモを取りながら読まれる事をオススメします。

 

ちなみにこの小説著作権切れの為インターネットでも読む事が出来ます。
参考までにリンクを紹介しておきますので、読まれる方、試しに覗いてみたい方はご覧になって下さい。

 

インターネットで読む場合
黒死館殺人事件

 

電子書籍で読む場合

 

 

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