『怪盗グリフィン、絶体絶命』(☆4.0) 著者:法月綸太郎


ニューヨークの怪盗グリフィンに、メトロポリタン美術館(通称メット)が所蔵するゴッホの自画像を盗んでほしいという依頼が舞いこんだ。いわれのない盗みはしないというグリフィンに、依頼者はメットにあるのは贋作だと告げる。「あるべきものを、あるべき場所に」が信条のグリフィンがとった大胆不適な行動とは(第一部)。政府の対外スパイ組織CIA(アメリカ中央情報局)作戦部長の依頼を受けたグリフィンは、極秘オペレーション「フェニックス作戦」を行うべく、カリブ海のボコノン島へ向かう。その指令とは、ボコノン共和国のパストラミ将軍が保管している人形を奪取せよというものだったが…(第二部)。 


Amazon紹介より

 

何を隠そう、今までミステリーランドシリーズの小説は一冊も読んだことがありませんでした。
とにかく、あの字の大きさに妙に拒否感があったのが最大の原因だったんですが、ここにきて綾辻さん法月さんといった新本格初期の作家が参戦したという事で、初めて手に取りました。

不安だったのがまずこのタイトル。
法月綸太郎と怪盗・・・はっきりいって想像のつかない組み合わせだし、しかも挿絵のグリフィンがなんだか妙に児童小説っぽいし、法月ファンじゃなかったら一歩引いちゃうんじゃないかと心配です。
さらには、3部構成とはいえ、小見出しの数が83!!どうしてもあの『密閉教室』を思い出しちゃう・・・。

とにかく不安だらけで読み始めたんですが、結構いい意味で裏切られたかも。
雰囲気は挿絵のイメージ通り子供向けに妙訳されたアルセーヌ・ルパンって感じなんですけど、法月さんらしからぬ軽めなタッチが意外にはまってたし、小見出しもいい感じに小説のあらすじを掴んでて、『密閉教室』の時のようなやりすぎ感はまったくありませんでした。

内容もゴッホの贋作騒動あり、謎の組織の登場あり、ブードゥー教もどきの呪いの人形ありと、ちょっと子供の頃に戻ったようなワクワク感があって読んでて結構ドキドキしました。正直こんなのも書けるんだって、改めて見直したというか、やるじゃん♪

もちろん法月さんらしく、物語を錯綜させるロジックもきちんと使われてるし、それがきちんと本編の盛り上がりに反映されてて、本格ファンもそれなりに納得できるんじゃないかと思います。逆にあまりに二転三転するので子供はついていけるの?ってちょっと心配になりましたけど。
それにしてもグリフィンって一体何歳ぐらいなんだろう?挿絵と小説に若干ギャップがあったのは気になりましたが。

でも、後書きで児童文学の名作『エルマーのだいぼうけん』を意識したと書かれていて、なるほど~と思いましたよ。
『エルマーのだいぼうけん』は僕も小さい頃わくわくして読んだ記憶があるし、それと同じような感じの興奮は味わえたかな。
そういう意味でも、新しい法月綸太郎を見せてもらったって気がしますし、これからもこういう小説も書いてもいいんじゃなのと思いました。

ところで、このミステリーランドの対象っていくつぐらいを睨んでるでしょう?
創設時のキャッチコピーとか企画案を知らないのですが、文字の大きさなどから察するに小学校高学年以上を対象にしてる気はするんですけど、そういった意味では若干大人の知識、もしくは難しめの単語も多い気もするんですが・・・。

まあ、そうはいっても自分もクイーンの『エジプト十字架』やヴァン・ダインの『グリーン家』を初めて読んだのは小学校の頃だし、この意見は子供に失礼なのかもしれなですね。

(2006.4.25 ブログ再録)