『ジェシカが駆け抜けた七年間について』(☆3.0) 著者:歌野晶午

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カントクに選手生命を台無しにされたと、失意のうちに自殺したアユミ。ジェシカは自分のことのように胸を痛め、カントクを憎んだ。―それから七年、ジェシカは導かれるように、そこへやって来た。目の前には背中を向けてカントクが立っている。ジェシカは側にあった砲丸に手を添える。目を閉じるとアユミの面影が浮かび上がる―。死んだ彼女のためにしてやれることといえば、もうこれしかないのだ。 


Amazon紹介より


小説として凄いかというと、そんなに凄いという感じもしないです。でも、はっきりいってミステリとしてはやられました。
動機も早い段階で語られてるし、読者を迷路に迷い込ませる仕掛けもこれでもかと提示されてる。いってしまえば、地の文も当然ながら登場人物も嘘をついてない。なにより犯人も事件を隠そうとはほとんどしてないんですよね~。

ようするに、作中の人物は騙されてるわけじゃないのに読者は騙されてしまう、そんな構造。折原一さんも真っ青ですな。
これを成立させようと思ったら、そうとうきちんとプロットを立てて、しかも文章に相当気を使わないと駄目だと思うんですけど、歌野さんは今ほんと油がのってるんだなと思わせるぐらい、きちんと書き分けてると思います。
何より、タイトルやカバー裏のあらすじ、さらには各章のタイトルなんかも含めて凄く計算してるっていうのが分かります。

っていうか、ものすごくシンプルな構造なので、感想というとすごく困るといえば困るんですけど、とにかく初期の悪筆がの面影は一切感じさせないですね~。
新本格の1期2期あたりの作家さんたちの中でも、今一番面白い作家さんかもしれないです。

(2006.4.13 ブログ再録)