たいりょうのちょっと一息

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『時の誘拐』(2.8)著者: 芦辺拓

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府知事候補の娘樹里が誘拐された。身代金運搬に指名されたのは全く無関係の青年阿月。だが大阪の都市構造を熟知した犯人の誘導で金を奪われ疑いの目は阿月自身に。彼の汚名をすすぐべく乗り出す素人探偵森江だが、捜査の先には戦後の大阪で起きた怪事件の謎が!?過去と現在が交錯する著者屈指の傑作長編。


Amazon紹介より

森江春策シリーズです。「時の密室」よりも前のストーリーなので、こちらから読んだ方がいいかもと読み終わって思いました。

 この作品も、大阪を舞台に、現在と過去におきた事件を森江が解き明かすんですが、結構おもしろく読めました。大阪に過去存在したもうひとつの警視庁を巡る権力闘争と疑獄事件はなかなかいいネタですし、現在に起きた誘拐事件における身代金受け渡しの場面なんかも、ちょっととしたサスペンスでわくわくします。

 ただそれにしても細部にたいする粗が目立つのものまたしかり。誘拐シーンではどうやって監禁場所に被害者を連れて行ったのか不明だし、いくらなんでも警察が馬鹿というか、見落とし&先入観が強烈で、リアリティ的に疑問が・・・。
さらには誘拐事件の犯人の動機や手法にも無理ありすぎ。特に誘拐された女子高生が発見される場面に仕掛けられたトリックには、いくらなんでも綱渡り過ぎて成功確率低すぎないかなと。

 別に現実に可能かどうかはそんなに重要視しないんですが、小説の世界として納得できなければ駄目だと思うのでちょっと残念ですね。

 意味ありげなオープニングも読み終わってみると、そんなに生きてないです。まあ終わり方というか、最後の方に出てくる過去の事件の当事者が残す味わいは嫌いじゃないですけど。やっぱり物語の閉じ方が不器用すぎるなあ、この作者はとまたしても思ってしまいましたね。

 余談ですが、この作品には著者がデビューするきっかけを作られた鮎川哲也氏の生み出した名探偵がゲスト出演しています。
数々の有名な小説に関する調査を匂わせるあたりは、鮎川ファンの僕としてはたまりませんでした。

 

(2006.2.21 ブログ再録)