『Twelve Y.O.』  著者:福井晴敏

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沖縄から米海兵隊が撤退した。それは米国防総省ペンタゴン)が、たった1人のテロリストに屈服した瞬間だった。テロリストの名は「12」。最強のコンピュータウィルスアポトーシス2」と謎の兵器「ウルマ」を使い、米国防総省を脅迫しつづける「12」の正体は?真の目的は?圧倒的スケールの江戸川乱歩賞受賞作。
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著作『終戦のローレライ』『亡国のイージス』『戦国自衛隊1549』などが映画公開の福井晴敏の『 Twelve Y.O.』。この作品は第44回江戸川乱歩賞受賞作品です。

 内容は著者の得意分野でもある自衛隊を舞台にした作品です。
 とはいってもこの作品は、自衛隊そのものよりも在日米軍の存在にウエイトが置かれています。テロリスト「12」が仕掛けたコンピューターテロの為に、沖縄在中の米第7艦隊が撤退するという異常事態が発生します。「12」はコンピューターウイルス「アポトーシス2」と謎の兵器「ウルマ」を使い、米国防省を脅迫し続けます。一体その正体、目的とは・・・といった感じで、複数の人物の視点からテロの姿、終戦後の日本とアメリカの関係を描いています。

 他の著作でもそうですが、まずバックボーンとしての軍事関係の描き方が非常に丁寧かつ詳細で、読み進めるのに苦にはなりません。その部分が丁寧に描かれているからこそ、そこに関係してくる人物の思想や苦悩に共感したり、あるいは反発したりと、作品の中に入り込みやすくなっています。

 また自衛隊を舞台にした作品というのは、ときとして単純な反戦物に陥りやすくなっていますが、著者は軍事強化に肯定的な者、否定的な者を平等の大地に立たせることにより、簡単には答えを提示してきません。また、内容上幾人もの人物が死んでいきますが、その死もある人物は無意味な死を迎え、あるいは義憤・情に死す、その使い分けが非常に見事ですね。

 『終戦のローレライ』『亡国のイージス』といった代表作に比べると、まだ淡白な面はありますが、この作品がまだプロになる前に書かれた事を考えると非常に読み応えはあると思いますし、いまや現代日本を舞台にした冒険小説の第1人者ともいえるべき存在になった著者の才能の一端が垣間見えます。とりあえず、ページ数も手ごろですし、こういった小説に縁の無かった人も手にとってみてはいかがでしょうか。

しかし、なぜ乱歩賞?