11枚のとらんぷ  著者:泡坂妻夫

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51DNrzwlcnL._SX352_BO1,204,203,200_.jpg

 
奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使われている小道具が、壊されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが…。奇術師としても高名な著者が、華麗なる手捌きのトリックで観客=読者を魅了する泡坂ミステリの長編第1弾。
                              amazon紹介より
 

 泡坂妻夫といえば、やはりその経歴が示す通り、奇術をメインにした作品が多く、また小説の構造そのものに奇術的要素を採り入れたもの(『生者と死者』は強烈な怪作です。)が多いのですが、その原点ともいえるのが著者の長編第1作にあたるこの作品です。

 泡坂作品を語るとき、トリックの素晴らしさが取り上げられる事が多いのですが、この作品の面白さはミスディレクションの巧みさではないでしょうか。創元推理文庫版でいうと、303ページの段階で読者にも論理立てて犯人を指摘することが出来ます。
けれども、この時点で指摘できる人はほとんどいないのではないでしょうか?
 本編のあちこちに解決に至る伏線がちりばめられているのですが、その表現があまりにも巧みで、こちらが気づかないまま通り過ぎていきます。事件解明の場面で、鹿川が犯人を絞り込んでいく過程で、読者はあまりにも露骨にヒントが隠されていた事に唖然とすること請け合いです。

 また、本編は3部構成ですが、その第2部として、鹿川の著書「11枚のトランプ」が挿入されているのですが、ここだけとってもマジックを下敷きにした短編小説として、抜群の面白さがあります。また、本編に至るところで語られる奇術の薀蓄の面白さも印象に残ります。


とにかく今読んでも新鮮で読みやすく、一級の本格推理小説なのは間違いありません。