『海の闇 月の影』 著者:篠原千絵

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一卵性の双子、「流水」と「流風」、2人は高校まで何でも一緒に過してきた、ある日、流風は陸上部の先輩に告白されるが、先輩の事は流水も好きなのを知っていて悩む流風、そんな中、陸上部の面々は雨宿りした場所で古墳を発見したのだが・・・。 


篠原千絵さんのサスペンス・ホラーの大傑作ですね。篠原さんは基本的にこのジャンルを得意にしてますけど、その中でも頭ひとつ抜けた完成度。

双子の姉妹、流水と流風が繰り広げる激しい戦い。基本的理由には一人の男性を巡る恋愛模様があるんですけど、その根底にあるのは双子ならではのシンクロニティというか、戦わなければならなくなった二人の心の奥に流れる結びつきが、読者に深い印象を残します。

2人はウイルスの感染によって不思議な力を得ることになったんですが、一応悪側といえる流水の行動も本人の心の奥に秘めていた願望が、ウイルスの力で当人の意思とは無関係のところで増幅されてると思うんですよね。そう考えると結構辛いよなと。感染する前はそうでもお互いの心を許せる唯一無二の存在だっただけに、一概に流水だけが悪いとは言い切れない。もちろんやってる事は大量殺人と人間コントロールなんで肯定のしようが無いんですけど。本当は両親や姉もあんな風に操りたくはなかったんじゃないかな。

また篠原さんの描き方もウマいっす。家族でも時々見分けのつかなくなる2人を唯一人完璧に見分ける事のできる当麻克之。まったく同じ顔の二人が同じ人を好きなって、でも相手はその片方を好きになって。普通の片思いと比べてもこれはきついな~。振られたほうからすれば、何が違うのって思っちゃうと思いますからね。
物語も煮詰まることなく展開していきます。克之を巡る2人の争い、謎の科学者ジーンの登場、ばら撒かれた細菌と治療の為の処方箋の行方、その過程で見え隠れする二人の想いが、あまりにも救われないラストできちんと収束してくれます。
ラストシーンで二人が選んだ結末はあまりに残酷で悲しいですけど、どこか救いのある終わり方なのかもしれない。このラストがあったからこそ2人は本当に心が結びつけたんじゃないかと。これからの未来を思うと辛いだろうなとは思うんですけどね。

とにかく何度読んでも面白い大傑作だと思いますよん。