『灰の迷宮』

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新宿駅西口でバスが放火され、逃げ出した乗客の一人がタクシーに轢ねられ死亡。被害者・佐々木徳郎は、証券会社のエリート課長で、息子の大学受験の付き添いで鹿児島から上京中の出来事だった。警視庁捜査一課の吉敷竹史は、佐々木の不可解な行動や放火犯として逮捕した男の意外な告白から、急遽、鹿児島へ…。アッと驚く犯人像。鬼才が放つ新機軸の本格推理。

amazon紹介より

実際に起きた「新宿バス放火事件」をベースに、東京と鹿児島で起きた事件を吉敷さんが追いかけます。
でも、紹介文のような新機軸ってどこなの???

事件そのものは、そこまで深い謎とはいえないかもしれません。確かに鹿児島の被害者宅で起こった発砲事件の真相はかなら大胆な印象、発想としては「龍臥邸事件」のトリックのひとつに近いですね。犯人もそんなに意外だとは思いませんでした。

ただ、この小説は人間関係の難しさが事件の根底にあり、そこから導き出される動機にはちょっと悲しい気分にさせられました。
特に、この作品のヒロインは、女性を書くのが下手な(というか偏見あるのかなあ~?)島田さんの作品の中では、かなり魅力的に描かれています。島田作品大好きな女性アンケートをとったら、ダークホース的な存在になるんじゃないかなと思うぐらいです。

事件の途中で彼女は殺されてしまいますが、なぜ彼女は殺されなければならなかったのか。その理由はほんとにやるせない。通子さんとの関係に悩む吉敷さんにとっては、一時の清涼剤的な役割だっただけに、ラストの場面では涙が零れました。

人気投票があったら、間違いなく下位。それぐらい地味な作品ですし、僕の中でもそんなに評価をあげる事はできませんが、それでも時々再読したくなる、そんな作品です。

でも、やっぱり現実の事件をベースにする必要は感じません。


キャラ3.5(島田作品屈指のヒロイン像を称えて。)
トリック2.0(現実にありそうな事件ですが、いまいち不発。)
ストーリー2.5(全般的に、地味な展開に終始します。)


総合2.5